2012年3月6日火曜日

佐賀県における肝炎助成制度によるインターフェロン(IFN)治療の現状

少し前の講演会になりますが、ご報告です。

● 佐賀県の肝炎ウイルス検査の状況
1992年から2010年に佐賀県の人口の約半分が肝炎ウイルス検査を受けたそうです。しかし、まだ、60歳以下の人は検診を受けていない人が多い。B型肝炎ウイルスの感染者は50台がピーク。(やっぱりこのままではいけないんじゃないかな。)そして、C型肝炎ウイルス検査に限って言うと、検査を受けた人は市町に寄って3~9割と差が激しい。(何かが偏在している。知りたいです、その要因。)平成20年4月~23年12月に佐賀県で治療費の助成を受けたのは延べ2033人。佐賀には16000人のHCV保有者がいると推定されているので、まだ12%しか助成を受けていない=治療を受けていないということです。(後88%は皆、治療の適応のない高齢者でしょうか。それとも丁寧な説明を受けたにも関わらず治療を断った人でしょうか。治療に時間を少しもさかせて貰えない子育て介護主婦や仕事人間でしょうか。そんなことはないはず。)

● 佐賀県の肝炎ウイルス治療の助成制度が改訂されたそうです。
① 月に自分で払わなければいけない治療費(月額自己負担金)は3万円でしたが、1~2万円までに変更されました。
② B型肝炎に対する核酸アナログ製剤を使った治療にも助成が下りるようになりました。
③ 2回目も、条件付きでOKになりました。
(詳しいことはやはり、治療を行なっている専門医療機関に聞かないといけないと思いますが、治療費助成の範囲や、治療の適応、使われる薬や副作用が、前とは変わってきていることは、ぜひ、皆さんに知っていて貰いたいです。)

● 治療で肝炎ウイルスがいなくなる割合が向上します。
初回治療ガイドラインで治療した場合
遺伝子型        1 2
ウイルス量が多い 5割 8割
ウイルス量が少ない 8割 9割

新しい治療薬(テラプレビル)を使えば、遺伝子型が1でウイルス量が多くても、治る割合が5割から8割に上がります。(テラプレビルには皮膚の副作用が今までの薬より多いので、お付き合いの仕方はありますが、上手く付き合えば、肝炎ウイルス感染は、8~9割は治る病気になります!!)

● 疫学
検診すればするほど助成率は上がる。
治療すればするほど死亡率は下がる。
(なので、ウイルス検査の受検人数や、助成費を受けた人の人数は、佐賀県の肝がん死亡率を減らす目標の参考になります。)

● 肝がん患者さんの数 
肝がん患者数は男性は頭打ち、女性は増えている。(早く治療を!)
高齢化が進んでいる。(早く治療を!)
死亡率は減っているが全国ワースト一位は変わりない。(早く対策を!)
C型肝炎ウイルス検査は30歳以上の人口の50%,HBVでは27%が検査済み。(もっと検査を!)
C型肝炎ウイルスに対するインターフェロンは、既知感染者の30%、推定感染者の12%くらい。(私達はまだ、肝がんで悩む人を減らせると思う。)

● Erectric Health Record(EHR)
健康に関する情報を電子的に記録することをEHRと言うそうです。(将来ブームが来そうです。どこの病院に行っても自分の健康情報を利用出来たり、個々のデータを集めることで、病気の原因や治療を検討出来たりするようになる??)佐賀県の肝がん撲滅の阻害要因解明に活用出来たらいいな、と言われてありました。

今度、3月17日のフットサル大会で、健康増進課から出す肝炎ウイルス検査と一緒に、肝炎検査アピールのパネルを出すことになりました。間に合うか!?若い人に検査を受けて貰いたい、というボスの思いです。間に合わせます。

2012年2月21日火曜日

B型肝炎ウイルスの感染を予防するワクチン

B型肝炎ウイルスは、C型肝炎ウイルスとともに、感染すると慢性肝炎を起こしやすく、肝硬変や肝がんとなる確率を上げるウイルスです。

B型肝炎ウイルスの感染の仕方には、垂直感染(母子感染)と水平感染(母子感染以外の感染)があります。尿、唾液、涙などの体液に存在し、体液同士の接触で感染します。

母子感染は、感染した母親から子供が生まれる時に感染しますが、1985年に母子感染対策が行われ始めて以降、減っています。しかし、母子感染での感染者は、B型肝炎の65%と言われ、内32%は予防を行われていたそうで、未だに大きな問題であると感じます。水平感染は、輸血による感染は有名で、過去には予防接種の注射器の使い回しによる感染も言われていましたが、現在ではそのようなことはありません。最近問題となっているのは、性交渉による感染です。不衛生なピアスの穴あけ、刺青からも感染します。その他、薬物常習者の注射器の共用、医師や看護師の針刺し事故なども水平感染に含まれます。また、最近は、父子感染も言われています。(子供の感染経路の1割くらいで、過去より増えているようです:ネット調べ。)保育園内で感染の可能性も報告されています。

B型肝炎ウイルスの中にも種類があり、中でも遺伝子型Aは、若い人で感染が拡大しています。B型肝炎ウイルスの感染拡大や肝炎、肝硬変、肝がんを阻止するには、まずは母親の感染予防(性交渉時の感染予防、感染している場合は治療)、次の関門は出産時の感染予防(免疫グロブリン、ワクチン)、次の関門は子供の感染前のワクチン接種、次の関門は子供の性交渉時の感染予防、子供が感染した後の治療、となると考えます。

コンドームの使用で、性交渉時の感染は「ある程度」防げます。(どの程度かは調べ中)

母親世代の治療は、妊娠可能な年齢や治療の副作用、治療継続期間の重要性を考えるとなかなか厳しそうです。しかし、感染の事実や子供に感染する可能性を知っておけば、感染の拡大や、子供への感染対策にもつながります。

出産時の感染予防は、現在行われていますが、数%の確率でキャリア(血中にウイルスがいる状態)となるそうです。何故かは原因解明中で、胎盤を介してではなく、産道で体表から血液へ感染するのだろうと言われます。日本では500~700人がキャリア化しているそうです。

感染の予防はHB免疫グロブリンとHBワクチンで行われますが、その方法は、統一されていないようです。HB免疫グロブリンの1回もしくは2回打ちでは、HBV-DNAが血液中にある(=キャリアの)母親からは、子供は10%くらいが感染してしまいます。

血液検査でHBe抗原(血液にいるウイルスの量の1指標)が陽性の母親は、子供に感染しやすく、HB免疫グロブリンとHBワクチンの併用で感染を予防しても、5%くらいは子供がキャリアになってしまうそうです。

免疫グロブリンは、生まれた子供へ1回もしくは、2回打ちますが、日にちを空けると7~8ヶ月でHBs抗原が上昇し始めるとのことであり、打つスケジュールは大事です。

また、病院実習に入る前の学生には、10%くらい、ワクチンに反応しない体質を持つ人もいて、追加接種や、ワクチンの種類の変更、皮下接種を皮内接種に変えてみたりするそうです。筋肉注射の方が抗体を作れるということですが、何故か(痛い?副作用の心配?)日本では主流でないようです。

ワクチンを3回接種しても、抗体価が100以下の人は3年で陰性化、1000以下の人は5年で陰性化するということで、追加接種の必要性も言われています。しかし、罹患期間が短くなるためか、明らかな肝炎は起こさない、感染しても発症しない可能性も高いと言われ、追加接種は必要ないという意見もあるようです。透析や免疫不全の人には、追加接種は必要という認識は定着してきている様です。デノボ肝炎(肝炎以外の疾患の免疫を抑える治療薬で起こる肝炎)の予防に追加接種が必要かどうかは、まだ検討していかなければいけない事項である様です。

B型肝炎ウイルスのワクチン接種には、検査も合わせると概算2万円くらいかかるみたいです。佐賀県の子供1学年約1万人に打つとなると、2億円、毎年、となるとかなりお財布がきついのも分かる。。。一部助成や、限定助成が検討課題でしょうか。しばらくはワクチン接種を各自で検討してみる必要がありそうです。

もちろん、肝炎ウイルスに感染しているかどうかの検査も受けて下さい☆
予約、治療を受けるなどの同意をすれば、当院でも佐賀県内の人は無料の検査が可能ですが、もう少し敷居を低くする方法を考えてみます。

※ 九州B型肝肝炎フォーラム(2012年1月7日)に参加して

2012年1月31日火曜日

ウイルス性肝炎とは

肝炎は、何らかの原因で肝臓に炎症が起こっている状態です。日本では、ウイルスによる肝炎が80%を占め、これを「ウイルス性肝炎」と言います。ウイルスにはいろんな種類がありますが、日本では、A型、B型、C型があります。中でも、慢性化して、肝硬変や肝がんの原因となりやすいのはB型、C型です。肝臓は、沈黙の臓器と言われ、肝炎を持っていても無症状のことが多いです。ほったらかし厳禁です。

肝硬変は、肝臓の細胞が死んで減ってしまい、硬い線維に変わっていき、肝臓の機能が弱ってしまう、治らない病気です。食欲不振、疲れやすい、黄色い皮膚、食道に静脈瘤が出来て吐血する、お腹に水が溜まる、足がむくむ、意識が悪くなる、などの症状があります。1年間に1割弱が肝がんを発症していきます。

肝がんは、その名の通り、肝臓に出来る癌です。肝がんの8割近くはC型肝炎ウイルス、2割近くはB型肝炎ウイルスによる肝炎によるものです。肝がんが進行した時の症状は、肝硬変と似ていますが、他に、肝がんが破裂してお腹のなかに多量に出血したり、骨に転移して痛みを生じたります。

佐賀県の肝がん死亡率は高く、長年対策に取り組んで来ましたが、ワースト1位を脱却するのは簡単なことではありません。元々、肝炎ウイルスを持っている人が多いのもありますが、多忙や短命にぽっくり逝くことを信じて治療したがらない風土(印象)、一昔前のインターフェロンの副作用の印象、一昔前のインターフェロンのウイルス退治成功率の低さ、それらを踏まえて、患者さんや医師の、治療に対する意欲の低さ(印象)などが、関係しているようです。もちろん、肝炎ウイルス検査の受診率も低く、宣伝も足りないようです。

肝疾患センターでは、そういう、治療を阻害する要因も明らかにしたい(証拠を掴みたい)、と思っています。

肝疾患センターのホームページです。
まだ、未熟ですが、肝疾患センターと共に、これから成長していきます。
クリック、クリックお願いします。
http://sagankan.med.saga-u.ac.jp

2012年1月24日火曜日

求める医師像、医師のあり方

医師会雑誌にあった簡単な記事を紹介します。

医療を受ける患者・住民50人、
医療人47人、
行政担当者19人、
医師を志す高校生41人、の計157人に対して行った質問の結果です。

●医師のイメージ。
忙しい、頭がいい、お金持ち、尊敬できる、が多い。
医療人にはお金持ちの比率が少ない。

●医師に求める資質。
判断力、誠実さ、コミュニケーション力が多い。
手の器用さやリーダーシップは少ない。

●医師は信頼出来るか。
ほとんど、もしくは一部の医師にで意見が別れる。

●自分の生活範囲での医師数。
不足している。特に医療人が深刻に捉えている。
総合医・家庭医を要するとの回答が専門医・研究医の約3倍。

●コンビニ受診、タクシー救急車の改善に必要なもの。
一般住民への教育活動。

●患者・住民、医療人、行政担当者の意思疎通について。
患者・住民⇔行政担当者間に問題がある。

医師は確かに忙しい。
昔とは意識がだいぶ変わってきているし医療界も変わろうとしているように思うけど、
医師不足ではなかなか厳しい。
お給料も、勤める病院や働き方で、負担も、時給も違う。不思議な制度。
リーダーシップは、医師個人には必要ないかもしれないが、医療界全体には必要。
総合医・家庭医として、自分を育てることも、人を育てることも大事。
教育って難しい。救急車を使うときの定義はあるのだろうか。
冷や汗が出るような耐えられない痛み、突然の麻痺、意識障害、出血多量は救急車ですね。
命や健康に関わることは、なかなか誰しも判断しがたいし責任もとれない。
自分のことや認知症となるとますます冷静な判断がしにくい。
一人の夜は不安をあおる。難しい問題ですね。
患者・住民も、医療人も、行政も、意思疎通のために発信していかなくてはいけませんね。

顔も見えない医師を志す高校生41人に期待。
そして、自分も、誠実に、頑張ります。

2012年1月10日火曜日

明けましておめでとうございます。

明けましておめでとうございます。

世間ではお正月は過ぎ去り、鏡開きの時期かと思いますが、私は昨日追加の年賀状を書き終わりました。あ、出していない。出さなくては。

昨日、与賀神社の十日えびすに初めて行って来ました。数年分ためたお守りをお火焚きして貰えるよう預けて、お参りしてきました。病院の場合、無病息災と商売繁盛が矛盾してしまうので、1月から着任した、肝疾患医療支援学講座の運営がうまく行くようお祈りしてきました。

肝疾患医療支援学講座は、佐賀県の肝癌ワースト1位脱却を念頭において計画された企画書を、佐賀県に提出し、佐賀県から認められて予算が降り、佐賀大学内に出来た講座です。医学部内の肝疾患センターにあります。

佐賀県の肝癌ワースト1位は、12年目に突入するそうです。肝癌を減らすためには、まず、肝炎を減らすことです。そのために、肝炎ウイルスの健診を受けてもらうこと、肝炎ウイルスの感染がわかったら医療機関を受診して貰うこと、治療が必要な患者さんに(地域で)治療が導入されることを目指します。そのために、佐賀県中のデータを集めて、調査をしながら、精密検査や治療が必要そうな患者さんを抽出し、講座の医師がかかりつけ医療機関の医師と相談出来るシステムも作る予定です。早く始動したいので大急ぎで準備中です。

プライマリー・ケア医としては、肝炎の患者さんの対応の仕方を少しでも詳しく学ぶべく、真摯に企画にのぞみます。

B型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスの検査、ぜひ受けて下さいネ。