2011年11月29日火曜日

ステロイドが起こす感染症と骨粗鬆症について

佐賀で内科学会がありました。
ステロイドの話を聞いて来ました。

ステロイドは、注射、飲む薬、吸入薬など、いろんな薬に入っています。気管支喘息、膠原病、抗腫瘍薬などで使われます。塗り薬では湿疹の痒みを止めたりします。しかし副作用も多く、使い方には注意が必要です。

ステロイドは感染症を起こしやすくします。20mgで内服しない人の1.3倍、20~40mgで約2倍、感染症を起こしやすくなります。なので、ステロイドの量が多い人、長く飲む人は感染症を予防する薬も飲む必要があります。

感染症の話では、ステロイドによるB型肝炎ウイルスの再活性化が最近言われています。昔B型肝炎の検査で治療が必要ない、もしくは治療で治ったと言われていた人も、ステロイドや抗腫瘍薬で自分の免疫が弱った時に、ウイルスの量が増えて来て、肝炎を起こすものです。ウイルスがいると言われたことがある人は、再度、検査が必要です。将来、病気をしても、充分な治療が受けるようにしておくためには、治療が必要なこともあります。ほとんどの場合、HBs抗原陽性の人はウイルス量を測定し、検出される場合は、核酸アナログ製剤を検討するようです。

ステロイドは骨折を起こしやすくします。1日2.5mg以上で背骨の骨折の危険度が上がり、1日7.5mg以上ではその危険はステロイドを飲まない人の5倍になります。骨密度を上げる薬を飲んでも、ステロイドを飲まない人と同じにはなりませんが、それでも、骨折の危険度はかなり抑制されるとのことです。また、どうしても必要な人には若い方でもビスホスホネートの内服をするようですが、妊娠3ヶ月前~妊娠中(初期?)に内服をしても、報告数は少ないですが、今のところ赤ちゃんの奇形などのリスクはビスホスホネートを飲まない人と同等のようです。

2011年11月22日火曜日

糖尿病で起こる神経の病気

糖尿病で起こる神経の病気について講演を聞いてきました。

糖尿病は神経を障害します。感じる神経(感覚神経)、身体を動かす神経(運動神経)、意識しないで身体のバランス(発汗、腸の動き、血圧など)を整える神経(自律神経)のどれをも障害します。眼を動かす神経も障害します。筋肉が細くなったりもします。

感覚神経を調べるには、足の裏に温かいもの、先の尖ったもの、筆などを当てる検査があります。運動神経を調べるには、踵や肘を叩いてアキレス腱反射、膝蓋腱反射を見ます。大きな病院では神経伝達速度を測ったりすることも出来ます。自律神経を調べるには、心電図を用いて、深呼吸で心拍が調整されるのを見る検査があります。

足の裏に尖ったものを当てる検査では、9箇所中4箇所以上が低下していた場合、将来足にトラブル(潰瘍を作ったり感染を起こしたりする)を起こす可能性が高いそうです。こういう方は、フットケアが特に大切になります。また、自律神経が侵されている場合、正常な人が運動する時に上がるはずの心拍が、身体が反応せず上がらないので、運動をすると突然死しる可能性があるとのことで、運動は禁止となります。

糖尿病性多発神経炎の診断基準は、
糖尿病であること、他の末梢神経障害が否定出来ることの2項目が必須条件で、
自覚症状があること、両側のアキレス腱反射(膝立ちで)が低下もしくは消失していること、両側の内側くるぶしの振動覚が低下していること、の3項目中2項目を満たすこと。

鑑別が必要な疾患としては、手根管症候群(手の痺れ)、慢性炎症性脱髄性神経炎(筋力の低下や筋萎縮)、脊柱管狭窄症が挙げられていました。他には、アルコールの飲み過ぎ、甲状腺機能低下、薬剤性、自己免疫反応(膠原病やギランバレー症候群)、多発性骨髄腫などがあります。

糖尿病がある人の半分は神経障害を持ちます。しびれや痛みなど、分かりやすい症状がある人はまだ元に戻れる可能性がありますが、感覚の鈍さや麻痺となってくると、なかなか元には戻れません。早めの相談が大切です。

神経障害は、糖尿病と診断される前の、「耐糖能異常」という病態からも起こってきます。メタボリックシンドロームの人にも起こるとされます。しびれは糖尿病にかかっている期間が短くても起こってくるようです。

血糖コントロールを10年間厳しく行うと、普通にコントロールしていた人に比べて、手足のしびれや冷えなどを起こす確率は25%抑制されるそうです。10年の厳しい期間が終わった後も、心筋梗塞は15%、死亡は13%抑制されるそうです。

治療後にしびれや痛みなどが出ることがありますが、急なコントロールで起こります。しびれや痛みは、大体、1~数年で自然に戻りますが、感覚の低下は残ることもあるようです。

糖尿病のしびれにはいろんな薬が使われます。フェニトインや三環系抗うつ薬は2~3人に1人は効きます。カルバマゼピンやプレガバリン、トラマドールは3~4人に1人は効きます。よく使われるメキシチールは10人に1人ですが、しびれや痛みが出現してすぐには効くようです。

長い話になりましたが、講演会の話はまだまだ濃く長くでした。が、ここまで。糖尿病の患者さんの神経の訴えは進行するものです。若い人の、血糖をコントロールの目標を緩めないと同時に、生活にあまり支障がないしびれなどの訴えも、元に戻るうちに対処が必要と思いました。

2011年11月15日火曜日

日本人はLDLコレステロールの高い方が長生きする?←しない。

だいぶ先日の話ですが、ある女性患者さんが、「LDLコレステロールが高いほうが長生きするって話もあるんでしょ?これから一生コレステロール薬を飲むのは嫌だ、辞めたい」と仰ってました。確か、1剤内服しているがガイドラインの目安の値を達成していない方で、量を増やすか種類を変えようかと思っていたところでした。

「LDLコレステロールが高い方が良い」説は噂に聞いてはいましたが、自分で読んだことはなく、巷では下げたほうが良い情報ばかり入って来るし、ガイドラインもそうなっているので、てっきり消えたものと思っており、鵜呑みにして薬を出す方向でいましたが、良いきっかけだったので、巷では解決したことカモしれませんが、この説について考えてみました。

「日本人はLDLコレステロールの高いほうが長生きする」は、2009年日本脂質栄養学会から出た論文です。女性のコレステロール上昇に対する死亡率増加は小さいこと、男性のLDLコレステロールの増加が死亡率を増やすというのが、有意に、言えるのは、190mg/dl以上であることから、女性のコレステロールを下げる治療は不要、男性はLDLコレステロール190mg/dlまで不要という話です。

これに関して、2010年に日本動脈硬化学会から声明が出ています。上記説の根拠となる論文は、発表に際しての専門分野の複数の研究者による検証(査読)を受けていないこと、結果が死亡率とアバウトで栄養状態や併せ持つ疾患、隠れてある疾患を考慮していないこと、高コレステロールと動脈硬化性疾患の関係は科学的根拠が多数示されていること、LDL低下薬(スタチン)で血清コレステロール値を下げても総死亡が増加することはなく、むしろ統計学的に有意に減少することが証明されていることが主張されてありました。

日本動脈硬化学会の声明文は非常に納得の行くものであり、やっぱり巷では解決している問題に違いない、と思いました。LDLコレステロールは高いほうが良いから治療したくないという患者さんには、元々死亡率の高い疾患でコレステロールが低くなっていること、LDLコレステロールを下げる治療をしても死亡率が上がることはなくむしろ有意に下がると証明されていることを説明し、ガイドラインに沿った治療を進めようと思います。

また、研究においても、観察だけの研究と介入する研究とは別に考えないと解釈を間違える可能性があり、解析する際も、解析された結果を読む際も気を付けないといけないと思いました。