だいぶ先日の話ですが、ある女性患者さんが、「LDLコレステロールが高いほうが長生きするって話もあるんでしょ?これから一生コレステロール薬を飲むのは嫌だ、辞めたい」と仰ってました。確か、1剤内服しているがガイドラインの目安の値を達成していない方で、量を増やすか種類を変えようかと思っていたところでした。
「LDLコレステロールが高い方が良い」説は噂に聞いてはいましたが、自分で読んだことはなく、巷では下げたほうが良い情報ばかり入って来るし、ガイドラインもそうなっているので、てっきり消えたものと思っており、鵜呑みにして薬を出す方向でいましたが、良いきっかけだったので、巷では解決したことカモしれませんが、この説について考えてみました。
「日本人はLDLコレステロールの高いほうが長生きする」は、2009年日本脂質栄養学会から出た論文です。女性のコレステロール上昇に対する死亡率増加は小さいこと、男性のLDLコレステロールの増加が死亡率を増やすというのが、有意に、言えるのは、190mg/dl以上であることから、女性のコレステロールを下げる治療は不要、男性はLDLコレステロール190mg/dlまで不要という話です。
これに関して、2010年に日本動脈硬化学会から声明が出ています。上記説の根拠となる論文は、発表に際しての専門分野の複数の研究者による検証(査読)を受けていないこと、結果が死亡率とアバウトで栄養状態や併せ持つ疾患、隠れてある疾患を考慮していないこと、高コレステロールと動脈硬化性疾患の関係は科学的根拠が多数示されていること、LDL低下薬(スタチン)で血清コレステロール値を下げても総死亡が増加することはなく、むしろ統計学的に有意に減少することが証明されていることが主張されてありました。
日本動脈硬化学会の声明文は非常に納得の行くものであり、やっぱり巷では解決している問題に違いない、と思いました。LDLコレステロールは高いほうが良いから治療したくないという患者さんには、元々死亡率の高い疾患でコレステロールが低くなっていること、LDLコレステロールを下げる治療をしても死亡率が上がることはなくむしろ有意に下がると証明されていることを説明し、ガイドラインに沿った治療を進めようと思います。
また、研究においても、観察だけの研究と介入する研究とは別に考えないと解釈を間違える可能性があり、解析する際も、解析された結果を読む際も気を付けないといけないと思いました。